「脱衣」
香月泰男
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- 作家名
- 香月泰男
- 作品名
- 「脱衣」
- 寸 法
- 33.5×21.0cm
- 手 法
- 油彩・キャンパス
- 制作年
- 1962年
- 備 考
- ・画面左下に「Y.kazuki」
・キャンパス裏に「Yasuo kazuki」
・右木枠に「脱衣」
・「香月婦美子」・「藤田士郎」鑑定証付
・『香月泰男作品集』(ギャラリーレスタック刊)掲載作品(No.13)
・『香月泰男一瞬一生の画業』(香月婦美子監修、小学館刊、2004年)掲載作品(p.44) - 解 説
- 荒々しく重ねられた土色の画面から、黒く太い線で描かれたひとりの人物が浮かんできます。大きく身をかがめ、腕を横へ伸ばした姿。衣服を脱ぐ一瞬の動きを捉えたものですが、そこにはどこか重く、張りつめた空気が満ちています。
顔の細かい表情までは描かれていません。それでも、深くうつむく頭部やこわばった身体、節くれ立った腕を見ていると、その肉体に刻み込まれた疲労や緊張がじわじわと伝わってきます。人物も背景も、暗い褐色や黒を基調とした抑制された色彩で統一され、画面全体に乾いた静けさが漂っています。
とりわけ心に残るのは、絵具を削り、擦り込み、何度も重ねて作られた独特の画肌です。この質感は、単に人物を描写するためだけのものではなく、積み重なった長い時間や、容易には消し去れない記憶そのものを刻みつけているように思えてなりません。
「脱衣」という日常のなにげない動作を通して、香月泰男は人間の身体が持つ重みや孤独、そして生きることの切実さを描き出しています。服を脱ごうとするその姿は、何かを脱ぎ捨てようとしているようでもあり、同時に、決して手放すことのできないものを背負い続けているようにも見えます。
削ぎ落とされた構図と静かな色彩の奥から、人間の存在そのものが静かに迫ってくるような作品です。
香月泰男(1911~1974)は、山口県大津郡三隅村(現在の長門市三隅)の生まれ。
香月は、第二次世界大戦後のシベリヤ抑留体験を描いた「シベリヤ・シリーズ」で知られる、戦後日本を代表する洋画家です。1931年、東京美術学校(現在の東京藝術大学)に入学し、藤島武二の教室で洋画を学びました。在学中より国画会に出品し、1939年には「兎」が第3回文部省美術展覧会で特選を受賞しています。
1943年、32歳で召集され旧満州ハイラルへ出征。終戦後はソ連軍によってシベリヤに抑留され、1947年に帰国しました。この過酷な戦争と抑留の記憶は、その後の画業に大きな影響を与え、長い年月をかけて全57点からなる「シベリヤ・シリーズ」へと結実しました。
帰国後は故郷の三隅を制作の拠点とし、シベリヤの記憶を描く一方、家族や身近な草花、動物、故郷の自然なども数多く描きました。1969年には第1回日本芸術大賞を受賞。生涯にわたり「人間」「生命」「故郷」を見つめ続け、独自の造形と色彩によって静謐で力強い作品世界を築きました。
